茅ヶ崎サザンビーチにおける景観シミュレーション(神奈川県茅ケ崎市/2005)

chigasaki_all 2005年の秋、茅ヶ崎海岸のサザンビーチに面するレストランの敷地に14階建てのマンション計画が持ち上がった。市民からは「最も茅ヶ崎らしいと感じているビーチに高層マンション建設が法的に許されることは全く信じられない、絶対に許さない」という意見が多かった。また「ビーチからは富士山や丹沢を臨むことができるため、14階建てによって富士山の眺望が損なわれる」という声も多く、あっという間に、数万人の反対署名が集まった。当時、私(卯月)は、茅ヶ崎市景観まちづくり審議会会長の立場にあったため、マンション建設業者と市民団体から出された計画マンションによって富士山がどの程度見えなくなるかというコンピュータの景観シミュレーションの画像が両者かなり異なることに疑問を抱き、現場でのワークショップを提案することになった。
 具体的には、計画建物の四隅にバルーンを揚げ、計画高さの45mと参考高さとして30m、15mにバルーンを時間差で変化させ、景観上重要な周辺地点から写真撮影をするという方法である。コンピュータではなく、実際に人間の目で確認をしようというものである。景観上重要な12の眺望ポイントを定め、標準レンズと望遠レンズのカメラで3つの高さのバルーンを写真撮影した。2006年1月25日の早朝、風の弱い時間帯を選んで実施したが、風の影響を受けずにバルーンがまっすぐ揚がる瞬間を撮影するというのはそう簡単ではなかったものの、結果的に、合計500枚近くの写真を撮影することが出来た。
 この「バルーンによる景観シミュレーション」に際しては、事前に時間を市民の方々に伝え、様々なポイントからの写真撮影を呼びかけていたため、多くの市民の関心を得て、さらに500枚の写真が集まることとなった。
 これらの写真を整理分析して、景観まちづくり審議会としては、法的には45mの高さのマンションは許されるが、富士山を眺望できるビーチの景観を守るためには、15m程度の高さが望ましいという結論を出し、計画業者にその内容を勧告した。その間、もちろん市長や市議会の動きもあって、最終的にはマンション建設は断念され、その後景観上影響のない3階建ての結構式場が建設されることとなった。