認知症高齢者のためのグループホーム「あおぞら」(東京都町田市/2000-2002)

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 高齢者の病院を経営する理事長から、認知症であっても高齢者が生き生きと暮らせる住まいを作りたいという相談を受けて、「地域とのつながりを考えた高齢者の新しい生活の場所」としてグループホームを設計した。
 当時は、まだ日本にグループホームの制度もモデルもない時代であったため、私達は建築や造園、福祉の専門家のチームを作り、国内外の先進事例の研究調査を行った。海外事例調査ではオランダとデンマークの高齢者施設を視察し、職員と居住者のヒアリングを行った。特に、グループの適正人数、中庭における高齢者の園芸福祉活動に大きな示唆を得た。
 さらに将来の利用者の声を聞くために、病院内の既存デイサービスに来ている高齢者に対して、若い時からの生活や食事の嗜好、親しみやすい空間等に関する個別ヒアリング調査を行い、ニーズを把握した。これを「個人史ノート」という形に整理し、グループホーム設計の基礎的なデータとした。その中で、多くの高齢者が育った環境から「中庭には実のなる木が欲しい」「池があって、水の音を聞きたい」という意見が出され、私達は中庭の設計にそれを生かした。
 ある程度設計が進んだ段階では、建設予定地に白線を引き、原寸大のダイニングルームや和室、さらには居室をダンボールで制作した。職員や将来の入居者に仮想の原寸建物内を歩いてもらい、玄関の場所や部屋の大きさ、窓の大きさや棚の高さ、さらには日当りや風向き、人間の動線等の設計寸法が適当かどうかを確認した。これまであまり意見を言えなかった高齢者や職員、さらに周辺住民も、現場での原寸ワークショップでは気軽に学生に声をかけられる雰囲気があるため、自由な意見が出された。もちろん、机上の設計ではわからない、隣りの建物の窓の位置や距離、また朝日から夕日までの太陽の動きの発見も設計に大きな影響を与える。このような現場でのワークショップは、より良い設計を進めるためだけでなく、会議室では発言しにくい様々な関係者の本音を聞き出すと共に、関係者の一体感を形成する上でも極めて重要なプロセスである。
 現在このグループホームの中庭は、地域のボランティアによって運営されており、毎年町田市の中庭コンクールで入賞する程、美しく維持管理されている。そのため、定期的なオープンガーデンや夏祭りには入居者やご家族はもちろん、グループホームに家族を入居させたいと考える人や地域の方々も多く来られ、グループホームの中心となっている。さらに、グループホームの運営も大変評判がよいため、都内のグループホームに勤務する職員が研修する場としても利用されている。
 参考文献:「新建築」2002年7月号
 ※プロジェクトの詳しい経緯は、萌文社から出版された「中庭のあるグループホーム」で。

 ▶プロジェクトデータ
  ・所在地:東京都町田市鶴間544番地
  ・設計年:2000年〜2002年
  ・委託者:医療法人社団芙蓉会
  ・プロジェクト内容:建物および外構等の全体的な企画・調整
  ・敷地面積:1820.85㎡
  ・建築面積:909.28㎡
  ・延床面積:1902.93㎡(1F:786.53㎡/2F:762.44㎡/3F:353.96㎡)
  ・構造:鉄筋コンクリート造、地上3F、一部2F